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終了しました。ありがとうございました!

本展示に足を運んで下さった方々、気にかけて下さった方々、本当にありがとうございました。
展示は終わりましたが、今後商品の販売やその他ございますのでご案内させていただきます。

2017/12/14 2人展「漂流の記憶」の対談掲載
制作の裏話を楽しく見ていただけたら嬉しいです。このページに下部に掲載しております。


2017/12 2人展「漂流の記憶」の通販を予定。

近日中です!もう暫くお待ち下さい。

​漂流の記憶展

​人々の記憶を留め漂う過去の遺物をテーマに、2人展を開催します。

漂流の記憶展
日時:9/30(土)〜 10/13 (日)10:00~22:00(期間中無休) 
会場:池袋
「Naturalis Historia」 詳細
最寄りはJR池袋駅。西武百貨店と続きのビル三省堂の4階です。

入場料:無料(店の一角です。)

会場の店には作家2人の常設販売もございます。

出展作家

医療系雑貨生みたて卵屋   twitter

sleep epidemical laboratory HP   twitter
 

駅からの地図

​漂流の記憶展 STORY
この展示には舞台設定など細かな物語が詰まっており、その物語の断片が作品として形となっております。

 10世紀頃、バルト海沿岸のノルド人はヴァイキングとして南部の地中海 に下り、広く交易が栄えた。

ある時、2隻の船が嵐に合い、航路を逸れ大西洋の無人島に漂着した。島付近の海流は荒れており、船は半壊。 脱出を考えはしたが、実り豊かな島と判明すると定住する事になった。

最初に「始まりの島」に辿り着いた彼らは、数年そこに住むが、その近くにさらに大きな島が有ることに気づき、そこを本島として移り住む。 故郷北欧に息づく神話の乙女「イルマタル」と名付けたこれら群島は、周辺海域こそは荒れていたが、島々の内海は穏やかで住むのに適していた。

こうして彼らは船に積んでいた交易用の種、家畜から、農業、家畜業、漁業を営み、細々と打ち上がる漂着物を楽しみに過ごすようになった。(A)

15世紀頃、欧州は大航海時代を迎え、漂着する物や人が増加する。 当時の人工物とは思えない物が打ち上がったり、別の言語を話す知識人が漂着したことで、静かな島は急激にその体制を変えていく。(B)

18世紀後半のある日、巨大な帆船マーメイド号が近くで沈没。大量の漂着物が流れ着く。その中には欧州の文化や流行を匂わせる、個人所蔵の 珍しい品々が多数あった。(C)

しかしその後の19世紀後半頃、地中海付近で大地震が起こり、その影響か定かではないが、この島でも度重なる地震と津波が発生…自然災害 で島の存在が消えることになった。海流の関係か、それとも侵略を恐れてか、結局この島に行き着いた者が外へ流れることは無かったため、未開の地として島の歴史が閉じる事になった。その後、島が蓄積していた品々が漂流物として欧州各地に流れ着く。

同じ頃、イギリスでは本格的な客船として、あの沈没した帆船と同じ名前のマーメイド号(2番目の船。

蒸気機帆船。)が建設され始めていた…。(D)

上記STORYの各時代で作られたとされる品を制作してみました。

記号(A,B,C,D)はその年代に作られていた事を指します。
※​お問い合わせの多い通販ですが、現在は予定しておりません。

コラボ商品

ご来場ありがとうございました。

対談

「漂流の記憶展」 対談

全体のテーマやコラボ品などに関しては対談形式になっています。

直接対話ではなく、Web対談なので読みづらい点もあるかもしれませんが、何卒よろしくお願い致します。

個人の作品に関しては、対談の後に各作家の制作裏話として上げています。

 


Araki Mizuho(医療系雑貨生みたて卵屋) :  ※以下Aで表記
はじめますよー。

 

Uchida Tomoko(sleep epidemical laboratory) : ※以下Sで表記
はい。

 

A :
今から漂流の記憶展の対談を始めたいと思います。

よろしくお願い致します。
 

S :
宜しくお願い致します。

 

A
先ずは、何故この企画展をやったのか…

主にテーマをどのように決めたのかについて、話したいですね。
 

S :
そうですね、まずはそこから…

 

A :
元々2人展をしようって話はあったよね。

 

S :
そうなんですよね、ずっと「二人で何かやりたいよね~」と話して、はや数年。

 

A :
今年はやろう!と意気込んで会場を探していたところに、

先に会場からのオファーがあって…
じゃぁテーマどうしようか…となったけども…
私がなんとなく「今年のテーマ海なんだよね〜」と気軽に話した所から

 

S :
私も数年前に「舟を漕ぐ」という海をテーマにしたミニ個展をしたんですけど、
そこで委託先のお店の出展の一部だったので本当に少ししか作品を作らなくて。
なので、今回また海というテーマで色々妄想できたらいいな、という感じで。
結構すんなりと海に決まった感じでしたよね。

 

A :
そうそう、ちょうどいつだったかな…海というのは頭にあったけど、

「漂流」を絡めたのは、国立公文書館の漂流の展示に行ってからなんだよね。
 

S :
あと、私は少し前から貝モチーフやビーチコーミングにハマっていたのもあって(笑)。

 

A :
そこでより海に漂流という要素が加わって盛り上がりが加速したというか(笑)。
そうそう、内田さんは最初の方からというか元々ビーチコーミングとかしてたよね。
因みに、その時漂流の展示に一緒に行った人も漂流で画集出してるよ。

 

S :
まあビーチコーミングと言っていいのかどうかというレベルですけど(笑)。
毎回何故か、妖怪みたいな…凄い猫背と遅い歩みになっちゃうんですが。
普通のウニとかも勿論良いんですけど、どんどんどんどんもっと小さい物に目が行くんですよね。
コメツブウニとか、1mmくらいの巻貝とか。だから1ヶ所から動けなくなる(笑)。

 

A :
私はそんなに海で拾い物ってなかったので…海行くついでに拾うくらいで。
じゃあやる前に拾う目的で2人で行こうかって事で、夏前に実際に二人で行ったよね。
(場所については有識者からの情報なので明かせないのですが;)
あれは楽しかった。

 

S :
普段は地元の朝霧(明石の近く)の海によく行くんですけど、
今回教えて頂いたところではやっぱり拾える物が全く違ってて。
二人でキャッキャ言いながら拾ってたんですけど、帰ってから見てもやっぱり綺麗な物が多くて。
こんなに色々な、綺麗だったり面白い物が拾えるなんて、やっぱり海って凄いなあと静かな感動に襲われました。

 

A :
内田さんはアクセに使う素材としても見てるから、

小さくて魅力的なものをついつい目で追っちゃうんだろうね。

私もつられて小さいもの探し…(笑)。
ガラスとか、貝の一部とか、石も瑪瑙とか…そんなの拾えるんだなって驚いたね。
またいきたーい。

 

S :
是非また行きましょう~。拾うだけで楽しいなんて素晴らしいことですよ。

 

A :
ねー、また行こう!

まぁ、というわけで漂流をテーマにとなったわけだけども。
でも実際に漂流物とか漂着物というのをフィーチャーしちゃうと、
売るのは「創作物」なので、本物と間違えて来ちゃう人いないかなぁ?と思って。
それで「漂着物」みたいな名前を展示名に入れるのはよくないかなぁ問題(個人的に)も出てきたんだよね。

 

S :
そこは私は言われて初めて「あ、そっかあ」と気付いたくらいで(笑)。

 

A :
細かいことなんだけどね(笑)。

 

S :
言葉のニュアンスや伝え方を重視しないと、見て下さる方全員が同じように受け取ってくれる訳ではないですもんね。

 

A :
結局、創作物の展示会でもいける漂着物を絡めた名前ってなんだろねってちょっと考えたよね。
いろいろ案は出て…
結局、「何かの記憶を宿した物」をテーマにするということで、

それは何かといえば、「漂流の記憶」では…?

ということから、この名前になったんだよね。
我ながら都合よい感じのタイトルにしちゃったなと(笑)。

 

S :
私は凄く良いタイトルだなあと思いました。
「記憶」って一番儚くも深く刻まれるものだなあと普段から色々な物事に対しても思っていて。
もうなくなってしまった、沈んでしまったもの達の物哀しさも醸し出してるというか。
タイタニック等にロマンやミステリーを感じる人が多いのも、それに通じるものがあると思うんですよね。

 

A :
そうだよね、うん…良かった。
確かにロマンは大切だよねぇ。
結果的に2人共気に入って尚且つ、お客様にもちょっと関わってもらえるような、

思いや思い出が繋がるタイトルになって良かったなと。
ただ実際問題曖昧過ぎて、お客さん意味わからなかったり来る気なくしたらどうしようかと;
それで、コピーを多少ロマンチックに「​人々の記憶を留め漂う過去の遺物をテーマ…」としてみましたよ!

 

S :
そうですね!

お互いの普段のコンセプトを考えても、とてもバランスの良いタイトルとコピーを考えてもらって、

私は「良かった良かった~」と安心して製作に移ることが出来ました。…凄い他力本願っぽい(笑)
荒木さんは史実を調べに調べてそれに基づいて本や作品を作るタイプで、
私の方は逆に空想の方を重視していると思うのですが、その両方のバランスが取れているというか。
(勿論、私も何かに基く場合は事実や資料を調べて検討した上で制作しますが)

 

A :
ありがとう〜(^^)
そうそう、そういう違いもあって。でも大きくは違わないからいいバランスだよね。
タイトルとかコピーについては、たぶんDM等のビジュアルを担当していたのも大きいかも;

 

S :
そう、荒木さんの責任が重大で私は申し訳ない気持ちで神戸から応援してました。入稿を…

 

A :
いやいやでも結局2人でDM作るというのは非効率だし難しすぎるしね。
どうしても分担になるからね。

何も詳細が決まってない所から、いきなりメインビジュアルを描くプレッシャーというか。
後からこれなんか違うよねって事にならないように、メインを決めておかないと動けないってことも有ったかな(^^;
何かしら商品が決まってたら良かったんだけど、今回全部新作なので。
一応船のキーはつくるかね。とは言ってたけど、ヒントが無くて本当にどうしていいか(笑)。

S :
何も決まってないのにビジュアルを上げないといけないという。

デザインでも設計でもよくあることですが、それは内部での会議用や検討図とかであって、

お客様に向けてではないことが多いですよね。大きく異なる。

なので相当難しかったはずなんですけど、素敵なものを上げて頂いて。

「うわあ~やりおったで荒木さん~!」みたいな感じでした。
 

A :
おお、ありがとう!なんか凄い嬉しい…。
そうだね、作るにあたって色々決めたけど、それでも判断するのに時間が足りなくて。

 

S :
うんうん…めっちゃわかります。悩んでる時間ねえ!みたいな。

 

A :
でも、必要な部材を入れ込んだから魅力的なDMになるかというとそうではなくて、
結局はバランスと美しさとテーマだよね。
部材(素材や言葉)があれば自分は楽だけど、そうでなくてDMはなんのために作るのか?

と言うことにもう一度冷静になって向き合うきっかけになったかな。
 

S :
なるほど~。確かに。

DMに対しての考え方は作る人によって、そして展示内容によって全く違いますもんね。
 

A :
そこで兎に角、美しさというもの、目を引いて心に残る記憶を大切にしようかなと。
静かであっても強いものになるビジュアル。をメインにデザインを考えることにしました。

 

S :
まさにそんな印象を抱きました、最初に見た時。大成功だと思います!

 

A :
海の、静かだけど何でも連れてきて、逆に連れて行ってしまう、

ちょっと怖い雰囲気を美しさに中に込められたらなと思いました。
イメージとしては、鏡を見ていたら波に吸い込まれたみたいな。
日常とはちょっと違う世界、場所の浜辺が見える。
そんな所から架空の島への扉、つまりこの展示の導入として意識してほしいなと。
そんな風に考えながら作りましたよ。

 

S :
そうですね、海は綺麗だけどそれだけじゃない…
色々なものを包み込む大らかさと、全てを奪い去る恐ろしさのどちらもある。
DMを見ると、ここからどんな物語が展開されるんだろう?と思ってもらえそうで。
地図もちらっとあるから、とても想像が広がって楽しみにしてもらえるのでは?と思いました。

 

A :
そうなの;この時点で地図というか島の図も描いちゃって。どんだけやる気なん?みたいな(笑)。

まぁ、私の場合はヒントみたいにちょっと糸口が見えると一気に頭でイメージを組み上げる感じになってしまうので…
実際はほぼビジュアルで内容を補完していて、今振り返って言葉にするとこんな感じです。
これは思いつきから最後まで一気に。手を動かしたら止まらなかったですね。

実際止まったら締切がやばいので止められないのですが;
本当に気に入ってます。


 

S :
そう、荒木さんって凄く手が速いので、何でもバッと描き上げるから毎回ビックリするんですよ。

荒木さんのお客さんは新作を出すあのスピードで十分ご存知だと思うんですが…(笑)。

なのでこのDMも、上述のように難しいのに、速く上げて下さったことで

私も作品を考える為にイメージを固めやすかったのでとても助かりましたね。
 

A :
わー恥ずかしい!いやいやありがとうございます(照)
では…この辺りでテーマ、からのDMの話しは一旦終了しましょうか。

 

S :
はい。

 

A :
ああ…変に緊張した。

 

■設定について

 

S :
では、次は設定について。これも私よりも荒木さんが時代考証含めてほとんど考えてくれて。

私は合間合間に口を挟んだり…(笑)。

なので、私がインタビュアーになったつもりで進めたいと思います。
 

A :
おお、よろしくお願い致します。

 

S :
では…まず時代設定についてなのですが、何故このくらいの時代にしたんですか?

 

A :
そうですね…島の位置が重要だと思いまして。
架空のと言っても今回漂着物を絡めるので、「架空の島」といいつつ、

その周辺の文明も大きな影響を及ぼす事になると思うんですね。
なので、2人がこれまで自分の創作に取り入れてきた文化の近くに島を設定したほうが良いのかなと思いまして。
そこでヨーロッパ周辺、大西洋に有る島。を設定しました。
本当はアトランティスとかそういう系の伝説も絡めたかったんですが、そうなると地中海方面になって、

また文献も多いのでどんどんいろんな情報が入って複雑になりメインがボケるなと思いまして。
これはナシにしました(笑)。

 

S :

うんうん、なるほど。


A :

実際に大西洋にあるいくつかの島がありまして、それを参考に島の形等を想像していきました。
そして、移住に対してそこまで拒否反応のない部族というと…レイフ・エリクソン等新しい地に抵抗なく、

また実り豊かな土地を求めていたであろう北方のヴァイキング系。
が、時代的にも一番しっくり来ると感じ、ヴァイキング期のノルド(北方系)の人々を最初の主人公に選びました。
島としても、架空の島であれば、今はない沈んでしまった島。という設定にした方がいいです。

そうなると漂着は10世紀として、沈む時期としては19世紀頃がギリギリかなと。
あまり最近だとおかしいし、ロマンないですからね。
船で人々が移住出来るような文化があり、尚且つ文明の発達も考えて大航海時代より前。とすると。

この様な設定になりました。
なんかややこしい説明でごめんなさい。

 

S :
なるほど!19世紀頃、確かに私も好きな時代です(笑)。

実り豊かな土地を求めていた人々…私、「ヴァイキング」とあったのでてっきり海賊をイメージしてたのですが、

実際はどんな人々だったんでしょうか?
 

A :
あ、そうですね。確かにヴァイキングといえば、「海賊」のイメージが強いですね。

私も最初はそうでした。でも自分の創作などで調べていくに連れて、どんどん民族に対するイメージが違ってきて…
あ、これ長くなるのでまぁ置いておいて;
今の調べでは、ヴァイキング期の人々は主に貿易というかそういったもので利益を得ていました。
なので、海賊行為は例外みたいなんですね。
確かに気性は荒い人が多い民族っぽいですが、大多数は平和に暮らしたい人でしょうね。
そういう人たちの中に、移住を目的に島を探したレイフ・エリクソンのような人々がいて。
寒くなくて実りの多い島で静かに暮らしたい…という女性や子供は多かったと思います。


※レイフ・エリクソンについて興味が有る方は、漫画の「ヴィンランド・サガ」がおすすめです!
最初戦争や復讐の話かと思って読んでたんですけど…違うんですよ…

兎に角、今正に見応えがMAXです。20巻近く有るんですけどね(笑)
 

S :
おお、やっぱり、一般的なイメージの「ヴァイキング」とは全然違いますね。
移住したい、良い場所で少しでも良い暮らしを、というそういう人々の想いを鑑みると、
危険を冒してでも航海を…というのも理解出来る気がします。

 

A :
そうですね。交易を広めたりしていくうちに文化の水準もあがるし、

それで征服欲が出て…という説もあるんですが、

一般人の私にとって共感できる部分は先程話した、単純に静かで豊かに暮らしたいと思った説の方を推したいです。
 

S :
うんうん、なるほど…。
あとこれは完全に余談なんですが…
最初私は荒木さんから口頭で島や人々の設定を聞いていて。
その時の、荒木さんが説明する人々の様子がなんか凄く可愛いかったんですよね(笑)。

これ、文章では上手く伝わらないのに何で話すんだよって思われるかもしれないのですが、
なんというかホビットやドワーフ的な…小人みたいな動きや口調で説明してくれるから、
普段空想的にイメージを広げる私はそれがとても気に入っていました。
島の人々は皆、小さなことにも興味や喜びを持って毎日を楽しく暮らすような、
可愛い人々だったんじゃないかなあって。
「細々と打ち上がる漂着物を楽しみに過ごすようになった」という部分からも
平和な時代が感じ取れると思うんです。

 

A :
うんうん、私もそういう感じで伝えたかったので、そこを気に入ってくれたのは嬉しいです。
彼らが島に渡って暮らし始めたら、

宗教や争い戦争を気にせず過ごすことで本来の気性を取り戻しただろうなぁとは思っています。
穏やかで日々の幸せな暮らしを噛みしめる普通の可愛らしい人々になっただろうなと。

 

S :

良かった、勝手な私だけの妄想じゃなくて(笑)。

 

A :

実は、島の名前に「イルマタル」という名前を付けたのは、素朴な感じを出したかったというのも有るんですね。
最初は北欧神話に有るような、〜ヘイムという名前は、神話から彼らの文化に直結してるし

わかりやすくカッコイイな…と思ったんですが。

そもそもヘイムは「住まう土地」という意味、要するに出身地に近いニュアンスなんです。

なのでこれはやめようと。

(誰も住んでいない無人島にわざわざつけて、主張した。というエピソードでも良いんですが。)
イルマタルという女神が出てくるカレワラという叙事詩は、かなり古くから各地に分散されていた、

所謂フィンランド人の土着の純粋な神話に近いようでして。
その神話の天地創造に関わる乙女の名前を付けることで、原点回帰というか、

しがらみなく行きられる土地であるということを示そうと思いました。
なので、島について名付けて(多分暮らしながら名付けた)、

その後外からの影響が大きくなってくるまでの400年間くらいは本当に穏やかに暮らしていたんだろうなと。
この時期を島の歴史の第一幕としたいなぁなんて思ってました(笑)。

 

S :
彼らが島に対して抱いた想いが「イルマタル」と名付けたことからとても伝わってきますね。
見つけた土地に対して、争いが生まれたり所有欲を持つのではなく、
期待や喜びを分かち合う生活を望んで、それを営むことが出来ることへの感謝。
そういう素朴な暮らしは、やはり微笑ましく楽しい想像が膨らみますね。

 

A :
ふふふ、ありがとう。漂着物とかで争ってたりするとなんか創作に集中できないもんね;
なんかね、ちょっとした事で子供のように喧嘩するというかそういう感じがいいよね(笑)。

 

S :
子供のおもちゃの取り合いみたいな感じだといいですよね(笑)。
「この透明のやつはワシが見つけたんやー!」「ワシもほしいんやー!うわあああ」
「こらこら、また明日探したらええんや」みたいな(笑)。

 

A :
そうそう!そういう妄想がいつも根底にあって、この面白さが逆に作品を作る時に活力になるよね(笑)。

 

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■帆船&蒸気帆船のマーメイド号について
そういう穏やかな時がこの島で流れている間、
世は大航海時代を迎えていく訳ですが…
作品にも絡んでいるマーメイド号について。

 

A :

タイタニックとか、えーとなんだっけ…船の名前は…過去の客船の年表みたいなの見ていろいろと調べたんだけど。
でも、実際にある海外の船を、勝手に架空の物語に入れちゃうとややこしいかなぁと思って。
一応時代とか合わせてるだけに、誤解を生むと思いました;

 

S
うんうん、そうですよね。ややこしくなっちゃう。

 

A :
なので、「あちらでも使いそうだけど使ってない名前」を付ける必要がありました。
最初はなんにしようと思ったのか…それ忘れちゃったんですよ。あぁ

 

S :
なるほど。。「マーメイド号」はありそうだけど当時の史実には無かった…ということで、

それに決定されたということで。
最初何だったのか気になる(笑)。

 

A :
うん、特にイギリスにはね。
そうそう、なんだっけ…だめだ忘れている…。
最初に考えたのは、その部分で引っかかっちゃったってことだね。
多分全部はチェックできてないと思うし、知らないこともあると思います。
ただ、タイタニックみたいに映画や伝説になっちゃうような船でかぶると結構キツイなと;
マーメイド号と言うのは、これは今回人魚(シーサーペント)に絡めたエピソードを入れて、
アイテムにバリエーションやロマンチックな風味を入れようか。
と話していたことだったので、そこから連想したんだと思う。
最初はそういう名前の客船は多いだろうなと思ったんだけども、
意外と当てはまらなかったので、GOとなりました。

 

S :
おお、そう言えばロマンチック要素の話をしていたことを思い出しました(笑)。

 

A :
あ、資料確認すると、小さめの帆船で19世紀前半にあったわ(笑)。
多分豪華客船ではないからかぶらないと判断したんだろうね。

 

S :
そうですよね。

でも、よくあった名前かもしれないけれど、今回は架空のお話なので…

空想的な名前にすることも大事かと私は思うので良かったと思います!
 

A :
そうそう、船もロマンチックな名前にしないとね。
被ってない事にこだわりすぎると、本来のロマンチックさ、物悲しさとかから離れてしまうよね。
ありがとう。
名前もアイコンの様にわかりやすいのが一番良いという事で…

 

S :
物語の最後の方で2番目のマーメイド号が出てきますが、これは何故ですか?年代を分けた意味は?

 

A :
それはですね、そもそもコラボで客船のルームキー等を作ろう。と決まっていましたが。
客室がたくさんあるちゃんとした客船が一般的になってきたのは、実質2番目のマーメイド号の時代なんですね。
ところが、その時代は19世紀後半〜なので、島がそこまで「存在した」となると、
ものすごく最近な感じがして架空感やロマンチック感がなくなるんですよね。

お客様も、そんな最近まで有る島が発見されてないなんておかしい。と思うでしょうし…。
そして船に積載されていた漂着物も、現代風になるとちょっとおもしろくない。
最初は「ルームキーも作るから、私は搭乗券を作ろう」と
1番目も2番目もなく、同じマーメイド号にまとめようと思ってたんですが、
時代感にそぐわないのにまとめてしまうと、本物感が薄れてしまうので…悩みましたが2つに分けることにしました。

 

S :
そうですよね。私も最初、荒木さんと設定どうしようか~ってお話していた時に、
ルームキーは1番目、搭乗券は2番目のマーメイド号と聞いたときにちょっと混乱してました(笑)。
一般的に想像される客船は2番目の方で、じゃあ1番目のマーメイド号は一体どんな船だったのか?

という色んな疑問が出てくるのかなと。
 

A :
確かにそう思いますよね(笑)。
私もそこは…無理のない設定にするにはどうしたらいいかを悩んで。
帆船の時代にも大型のもので、商船あったので、

じゃあ新しい地を開拓しに行く商船として考えて見ようと思いました。
今回、マーメイド号は初代も2代目も、イギリスのサウサンプトンからケープタウンに行く船なわけですが、

初代の18世紀後半の時期、ケープタウンは単なる植民地ではなくかなり急成長していて、

貿易で儲けようとする人々が急速に集まる土地になっていました。
その時の統治はイギリス以外のヨーロッパ諸国だったんですが…フランス革命が始まると、

それに関わる欧州諸国は力をなくしていきます。
そのすきにイギリスはケープタウンを占領し、領地にしてしまうんです。これが19世紀初頭。
なので、18世紀後半辺りは、たぶん急速に成長するケープタウンへのあこがれと、

そこに付け入るすきがあるという野心をもった人々は、絶対にイギリスにいただろうと思いました。
そこで、商船マーメイド号は、純粋に商船という顔を持ちつつも、貴族の視察船のような役割ももたせました。
もし、ケープに領地をもっても良さそうなら、少しづつ人や荷を移そうかなぁと言う感じで。
メインの貴族が船建設して、そこに他の貴族も客人として乗せる…
「ケープ興味あります?」みたいな(笑)。

 

S :
ここまで詳しく考証して頂いてるともう有り難い以外の言葉が出てこないですよね(笑)。
私はあまり歴史には明るくなくて。
時代劇とか、ダウントンアビーのようなドラマや映画は大好きなんですけど…。

 

A :
いやそれは内田さんだってアクセサリーの歴史については詳しいじゃん。
もう分野の違いだよね;
私はアクセサリーとかは全く詳しく無いので、いつも凄いと思ってます。

 

S :

私のアンティークジュエリーとアンティークの服に関してはただの趣味なんで…(笑)。
ちょうど2番目のマーメイド号の時代が、私の一番好きなジョージアンジュエリーの時代なんですよね。


折角夢いっぱいで出発したのに、まさか船が沈むとは思ってなかったろうと思うと、
私達の架空の設定とはいえ可哀相と言うか申し訳ないというか…(笑)。

 

A :

そうそう、よく考えると野心も凄いけど、夢いっぱい、希望いっぱいなんだよね;
なので、初号は客室は少なめです。
客室はお貴族様用に30室くらい。乗船員は、まぁその時代はその辺で寝転がる感じというか。
そして出向して早々に、西に航路が逸れて沈没…。あぁ…。

 

S :
嗚呼…(笑)。
船の内部やどうやって寝てたかとかは楽しい部分ですね。
食糧庫とか、甲板とかどんなのだったのかなって。
設計図を見たくなる(笑)。

 

A :
あとちょっと船の紋章についてコメントしておきたいのですが…
初代マーメイド号の船の紋章は、まぁ船がメイン。そして、上部にユニコーンと2体のマーメイド。

ユニコーンは、イギリスの紋章にもよく出てきますが、

偶然にも単に「入れたい」と思って描いちゃった後に調べてわかりました(笑)。
 

S :
あ、そうだったんですね(笑)。

 

A :
結構良い紋章できたなぁと思っていたんですが、それで2代目も同じにするか?
というと、やっぱり2代目なんで、もう少し近代的な感じに意味を持たせた方が良いのかと思いました。

搭乗券のメインとして扱う図柄ですし。
もともと搭乗券を作るのは決まっていたので、豪華客船が一般的になった時代についても調べていまして。

設定としてはこうなります…
初代が沈没後、同じ貴族の家で幾つか商船は作られ、結構儲けて次の代へ。
その次の代辺りで、豪華客船を製造し始めることに。
会社は、サウサンプトンーケープタウンの航路なので、昔から南十字星を基準に航海していた事もあり、

「ザザンクロスライン」と名付けました。
なので、2代目の紋章は、船の行先の空に、十字が光っています。
この十字がサザンクロスというわけです。

実は、最初は紋章のユニコーンに絡めて、

「ホーンネッドムーンライン」という名前にしようかと思ってました。

ユニコーンの角(ホーン)と夜空の三日月(ムーン)をかけ合わせたんですね。
これもロマンチックでいいなぁと思いましたが、
あとから思いついたサザンクロスの方がより合っているかなと思いまして。
実は、決めきれなくて3等搭乗券に使ったスタンプまでこの2パターンで作ってしまいました。
いつかこのホーンネッドムーンラインも登場させたいですねぇ。

 

S :
あー!
製作期間中に「スタンプ2個出来ちゃった、どうしよう」って言ってたの、
そういうことやったんですね。
その時2人共お互いバタバタしてたからあまり理解出来てなかった(笑)。

 

A :

そうそう…そうなの(笑)。

 

S:

でもその甲斐あって素敵な紋章と搭乗券に仕上がりましたよね。
紋章の意味を色々解説してもらうと、更に物語性が深まりますね。
ホーンネッドムーンラインもいつか是非(笑)。

 

A :
せっかく作ったしね!いつか絶対!

 

そうだ、ジョージアンジュエリーの時代ってよく内田さん好きやといってたよね。
初代のマーメイド号の。さっきの話。

 

S :
そうなんです、よくぞ聞いてくれました(笑)。
展示内容からは少し話が逸れますが…
イギリスとフランスのアンティークが特に好きで、
イギリスだと1714年~1837年までがジョージアン、
1837年~1901年までがヴィクトリアン、
1901年~1910年がエドワーディアンなんですが。
その中でもジョージアンのジュエリーが特に好きで。装飾の雰囲気や石の留め方等。
なので今回も折角貴族が出てくるのでジュエリーを作ってもいいのかなと思ったんですが、
ちょっと豪華過ぎるというか…テーマや雰囲気にそぐわないのでやめておきました。

 

A :
そうだね、確かに島の素朴な人々から、
貴族の美しく高価なジュエリーはなかなか連想しづらいよね。
ちょっと浮いてしまうので勿体無いというか。

 

S :
そうなんですよね。
やっぱり今回は島!海!というロマンの方を大事にしたかったので…。
またそういう展示や機会にやりたいですね。

 

A :

うんうん、是非ともやりたいね!そういう、好きなものにのめり込む展示もいいよね。


S :
是非やりたいですね、腕が鳴る感じがします。
原価も相当かかりますけど(笑)。

 

A :
そうや…そこんところも重要だよね(笑)。

 

というわけで、設定はこの辺にして…まぁ作品の話でも設定は絡んでくるから、

もうそろそろ作品の方の話をしましょうか。
それじゃあ次はコラボ商品から…ルームキー行きますか。

 

■コラボ商品「マーメイド号ルームキー」について
 

S :
そうですねー、まずはルームキーから…

 

A :
これは一番最初に取り掛かったよね。

 

S :
ですね。
去年私がホテルがテーマの個展をした時に、ルームキーを作ってたんですよね。
なので、応用ではないけれど、また全然違ったバージョンで作った感じですね。

 

A :
そうそう、今回は船。みたいな。
基本的にコラボとなると、内田さんが立体で私が平面という、
住み分けがはっきりしていたほうが、それぞれの知識経験が活かせるので。
今回もそういう感じやりました。
立体×平面のコラボだと、どうしても立体の方がものすごく大変になってしまうんですね。
なので、立体側の負担軽減のためにも、既存のバージョン違いを出す事にしました。
特に内田さんの作品は精度が高いので、1つの作品でバージョン違いを出しても、

それぞれ違った味が出るので凄いですよね。
 

S :
そう言ってもらえるととても嬉しいです。
制作の負担に関しては、やっぱり一人だし、どう頑張っても数作るのに時間かかるので…(笑)。
元々車両設計(新幹線等)の仕事をしていたので、今でもイラレやフォトショじゃなくて
CADソフトの方が使いやすいですし、そっちで形を考える方が多くて。
「あー、これのあと0.5mm短いネジが欲しいのに、規格に無いから自分でカットするしか…」

みたいなことばっかりです(笑)。
個展の際のホテルのルームキーは、今思うと「何故自分はあんなことを?」というような、

物凄くややこしくて手間がかかる方法で製作してしまったので、正直二度と作れないです(笑)。
仕様として仕方ないんですが、

中に真珠の錠剤を仕込む為に厚さが出てしまったのも気になってて。
なので今回はその経験を踏まえて、
なるべくシンプルな設計と製作方法で手に持った時や使う時に
ちょうど良い大きさ・軽さ・厚さにしました。
荒木さんの描いたエンブレムが単純に格好良いので、
シンプルすぎるくらいがリアルでちょうど良いかなと。
実際とても格好良いものになったと思うし、良かったです。
既に上でも言いましたけど、荒木さんは描くのがとても速いので、
製作に取り掛かるまでにサッとエンブレムを上げて頂いたのも有り難かったです。
あとサイズ感や素材感の共通認識が持ちやすかったり、
意思疎通がしやすい仲なのでお互い仕上がりイメージにブレが出にくいと感じています。

 

A :
お互いに付き合いが長いので、信用性もありますね。
提案したものがそれ以上の姿になって返ってくるだろうと安心できるというか。
なので、「わー、で結局どうなるんんだろう…ドキドキ冷汗」みたいなストレスが無い分、

更に良いものを作れるパワーになるんじゃないかなと。
頭が柔軟なまま制作に入れるというか。

 

S :
そうなんですよね。
絶対想像以下で返ってくることはないという安心感がありますよね。
これ変かな…とか、これ言っていいんかな…みたいな提案も言いやすいですし。
却下されてもダメージもあまりないですし(笑)。

 

A :
だいたいお互いの提案に対して、「えー、ソレやだ…。」みたいな事になることが少ないですよね。
なんでだろう、趣味なども結構違うのに…謎ですね。
紋章(絵)については打ち合わせをしながら、そのままラフを描きまして。
打ち合わせがまとまる頃にはもう出来上がっていたので、
そのままペン入れして…おわりました…。
すみません特に葛藤が無くて…。
紋章自体は、カッコイイのでいつか描こうv(*´ω`*)と思ってまして、紋章の本で少し調べた感じですね。
古い紋章は結構シュールなので、そういう雰囲気も少し入れました。

 

S :
本当、あまりすれ違い?ギャップ?はないですね。
お互いの出来ること・出来ないことを理解しているので、
相手の範疇を超えすぎるような無茶を言わないのと、負担や苦労をきちんと理解しているからかなと思います。
これはどんな人間関係においてもそうですけど、
お互い敬意がないと良い関係は築けないし、ましてやコラボなんて絶対成立しないので。

 

紋章もそんな速かったんですね(笑)。
でも確かに、描くね!!と言われてからラフを見せてもらうまでが凄く速かったです。
元から結構考えてて固まってたのかと思ってたのですが、そうじゃないってことですよね。
一瞬でパッと思いついたってことですよね?

 

A :
はい、そうです。元から考えてて、寝かすということがそもそもあまり無くて…
パッと系です。

 

S :
パッと系(笑)。いや素晴らしい。

 

A :
たぶん生活していていろんなヒントがあるのですが、
それを結構直ぐ忘れるタイプです。
でも脳内では一応覚えていて、ある時いきなりシナプスが繋がって思い出す…。
なんでしょうか。
うーん、脳科学者に聞いてみたいです。

 

S :
荒木さんは文章はかなり理論的だったりきちんと調べたことから書くタイプですけど、
絵に関してはそこから感覚的に描く…と言う感じなんですかね。

 

コラボ作品はいつも名前をどこにどう入れるかで結構悩むのですが、
今回は船のルームキーなので「shipyard by ~」で入れるのはどう?と
荒木さんが提案してくれて。
「カッコいい!!それで!!」と
某麦わらの船長みたいなテンションで即断でしたね(笑)。

 

A :
あ、そうそう、コラボでコピーライト、迷うよね。
いやあれは最初私が普通に(c)で入れちゃって、内田さんからどうも違和感がある…
と話があって(一応船のルームキーだし)、
咄嗟に、それなら船の製造者➡shipyard by ~でどうでっしゃろみたいな。
私は紙モノしかやったことがないので、あまり思い至らなくて;
結果的にまとまってよかったです(笑)。

 

S :
あれ…そうでしたっけ(笑)。
自分から違和感あるって言ったことを完全に忘れてました。

その提案があまりにキュンときたので(笑)。
ほんとまとまって良かったです!


あとは製作については…
ルームナンバー面でマイナスネジを使ってること、ネジや金具を全て真鍮で統一してることとかですかね。
ホントはネジは周りの木枠部分も全てマイナスにしたかったんですが…
作業効率や強度面、その他の事情を踏まえてプラスネジにしました。

 

A :
内田さんはネジ愛がすごいよね…。
確かに、完成品が上がってくるととても良くわかるんだけども、
普段からネジに親しみを持ってないとそこまで思い至らない気がする…。
全体の雰囲気を、自分好みに持っていくための妥協のなさがこのネジ愛に繋がってるんだな…。
と今自分の頭の中で考えております。

 

S :
ネジ愛は確かにあります…察して頂いてありがとうございます(笑)。
これも完全に車両設計時代の名残というか、職業病みたいなもんです…。
やっぱり細部が全体の印象や構造に影響してくるので、そこは絶対こだわりたいですね。
たかがネジ、されどネジ。
いつもお世話になってる浅井製作所さん(ねじ屋さん)に大感謝です。

 

A :
確かに…!なんだろう、主張したいわけではなく、
ただ単純に安心できないという理由で、人にとっては細かい部分をめちゃくちゃ完璧にする習慣(?)が…
あるよね。
こういう、細かい部分とどうでもいい(気にならない)部分の積み重ねで、
作品の特徴が出てくるのかもしれないね。
作品の性格というか。ちょっと理解しづらいけど、それが面白みでも有るという部分が。

 

S :
そう、そうなんですよね。性格(笑)。
あ、あと私ネジを「飾りとしてだけ使うこと」はなるべく避けていまして…。
ネジやその他の部品もそうなんですけど、それがきちんと機能していることにこそ意味があると思っているので、

勿論ネジはパーツを繋いだり固定する為に使っています。
必要性がまずあって、その上でデザイン上の位置やサイズも踏まえて選んでいくという感じで。
なので逆にコラージュ的に使うことが得意ではないですね。これも性格ですね。。

 

A :
そうそうわかる!
意味のない飾りは私もすごく苦手!
わかっている人に見られたら恥ずかしいと言うのもあるし、
逆に自分がお客さんだった時に感じるガッカリ感が容易に想像できるので。
勿論センスの良し悪しがあるのでなんとも言えないのですが、
自分のセンスでは、意味のないものを「魅せる」事が難しい。んですよね。
どうしても機能、意味を持たせてしまう。
何かの記号、文字、意匠、言い出したらキリがないのだけど、
自分の作るものには必ずそれぞれ意味があって欲しいし、

隠れたメッセージがいつか伝わったら面白いだろうなというドキドキ感もそこにはあって。
それらすべてが自分の作品を構成するものであってほしいなぁと思ってしまう。
まぁだからなんだって話ですが…。
性格ですね。。

 

S :
私も昔はビジュアルデザインを専攻していて絵や平面から始めた人間だったので
荒木さんの言ってることも分かるし、
荒木さんもパッケージデザインをされていたから
私の言ってるような立体のことも分かってくれることもあって、
二人とも、「どの部分にも意味があること」が大事で、
機能性・機能美へのこだわりや意識が似ているのかなと思います。


そうですね、だからなんなんだって話ですけど(笑)。
思想や性格が合うことは大事だなって話。。?

 

A :
そうね、コラボ商品の話だし。
大切大切。

 

S :
まあ、まずはルームキーから…でこんなに長くなってしまいましたけど(笑)。
こんな小さな作品にも、色々な想いが詰まって出来上がりました。という感じです。

 

■コラボ商品「水面の手鏡 沈没船の住人」について

 

A :
それでは次のコラボ商品、水面の手鏡「沈没船の住人」について
ちょっと話しましょう。
内田さんの水面の手鏡で、2度目のコラボですね。昨年は北天星図でした。

 

S :
前の「北天星図」の時は長方形で少し大きめで、持ち歩く手鏡というよりは飾る物と言う感じで…。
なので、今度は持ち歩ける大きさと形にしたいねって話してたんですよね。
で、丸にしたいねってなって。

 

A :
うんうん、これは…決まるの早かったですね。
最終的にこの形になった…と言いたいところですが、形自体は内田さんが元々持ってた別案用の形でして。

今回は船が出てくるので、コンパクトだし船窓のイメージでこれで行きましょう的な。
しかし問題は中身…

 

S :
そう、中身…まさかの認識の違いが下書き時点で発覚という(笑)。

 

A :
絵に、ちょっと人魚を登場させる(関係させる)か…みたいな話にはなってて。
私は沈没した船の船窓から、人魚姫がひっそり棲んでいる部屋が見えるという設定でラフを描いたんですが…

 

S :
私の方は逆で、船の窓の中から外の海底を覗くと人魚の住処が見えるという、
かなりロマンチックな方向をイメージしてたんですね。

 

A :
そうそう、外から見るか、中から見るかの違い。
ラフを描くのがすごく大変で…ようやっと描き終わったと見せたら
まさかの行き違い(笑)。
でもどうしようか…となったものの、意外とアッサリ「じゃこれで。」
ってなりましたね。

 

S :
だって、もう既に描き上げてくれたその絵が本当に良かったので(笑)。
でも結果的に、実は…というひっそりした感じで人魚の存在を匂わせるビジュアルになって。
それが手鏡や展示の雰囲気に合っていて、本当に有り難かったですし良かったなあと思います。

 

A :
わわー、良かった。そう既に描いちゃってるしね(笑)。
でもよくよく考えたら、海底の人魚の住処の方がモチーフとして描きやすい。
というか自由度が高いんですよね。
人魚姫なんかの物語にも、竜宮城のようなお城が出てくる。
リトルマーメイドもそうですね。なので、結構自由に描いてもいい感じがするんです。
それなのに何故あえて、船室を描くという難しい勘違いをしたのか…;
ラフ描く前に、正直「これ上手く描けるかな?」とドキドキしました。

 

S :
ああー、確かに。。
でもその難しい構図を描き上げて下さったお陰で、
一般的な人魚のロマンティックなイメージとは一味違う、
この展示ならではのものになったんですよね。
とても荒木さんらしさのある、荒木さんが描く意味のある絵だなって思います。

 

A :
わわー、更にありがとう!あああ確かにそれはそうかもしれないです。
できれば誰も描いたことがない絵のほうが、新しく描く意味あるよね?
というワクワクの挑戦というか。
他とは一味違うと言われるとうれしいですね。
でも…これ本当に描くのが大変でした。
実際に描いてみると甘く考えてたなぁと思い知ったというか…。
描く前に年代と船を照らし合わせて調べてみました。
18世紀後期はまだ帆船なので、木造部分が多いんです。
だから雰囲気は出しやすいけれど、朽ちるのが早そうだなぁって(笑)。

 

S :
その感覚、立体でも分かります。自分らしい、他に無い物を作れたらいいなあと思いますよね。
いや、多分そう思って作ってる人が多数派ではあると思うんですけど(笑)。

ただでさえ描くのが難しい船で、しかも時代と素材と沈んだ後を想定しながら描くって相当大変ですよね。
 

A :
最初はそれこそ沈没した船の部屋を調べてたんですが、
まぁ沈没=海底なので、自然光なんて入るわけ無い…暗くて朽ちてて、かろうじて形がわかる。
壮絶な物悲しさしかないわけですね。
これは絵にするのは面白味に欠ける…と思いまして。
ちょっとファンタジックな要素を入れたほうがいいだろうな
と考えました。
船室の資料を元に、もう少し部屋を広く豪華にして空間に余裕をもたせました。
乱れた家具以外にも、海の生き物も描かないといけないので。
そして沈没したと言っても、
比較的浅瀬という設定にして色と光を殺さないようにしました。
こうして舞台を整えて、最初は家具から描きましたね。

 

S :
やっぱり描いた人が実はこういう風に色々検討して…というのを聞くと、
そうだよなあ、そこまで考えないと描けないよなあと改めて勉強になります。
絵って簡単に描いてるように見えるけれど、結局経験や見てきたものや知識がないと
それを表現することって出来ないんですよね。
当たり前なはずなんですけど、意外と気付かれない…。
描く人にしかやっぱりわからない苦労が沢山ある。
ちなみに私はデザイン科でもう描くのが嫌になったタイプです(笑)。

 

A :
ふふ、なんだろうね…描く前は頭にいろいろ想像していたものや構図があって、
でも実際に描くとなるとうまくいかない…。
そのギャップを埋めるのは、結局描きまくるしか無いんだろうなぁと。
苦手なものも気にせず描く度胸と開き直りが必要(笑)。
そうそう、家具も、乱れている状態を描くというのは結構難しいんですよね。
人工的な乱れじゃない、自然な乱れというのは
結構その人の性質が出やすい部分なので…。
普段から、「実際にあるけれど、写真や動画そっくりにならないように」
配慮した風景画をたくさん書いているので、
自分なりにどうしたら良いか頭を使ったのはこういった構図の部分でした。

 

S :
そうですよね、もう絵は修行修行ですよね。
今回の場合現実だけを描いても見栄えがしないし、かといってただファンタジックに描くのも違う。
そのバランスが絶妙に描かれてて凄いなあと思いました。
あと、この「水面の手鏡」は「『光に透かす』というアクションをして驚いてもらうこと」が重要な鏡なので、
その瞬間に「わあっ」と思ってもらえる色使いや鮮やかさを出して頂けたのは流石だなあというのと、

きちんと通じていて嬉しいなと感じました。
 

A :
わぁめっちゃ褒められてる。これ他に何も言うことない感じや…(笑)。
こういうことに感づいてくれるのも、きっと絵を描いた経験が有るからだよね。
たぶんそういう目線で見てくれる人は少ないんじゃないかなぁと思っています。
出来るだけ絵としての不自然さを目立たなく。が目標なので…。
それでも、乱れている割には美しく、
人魚の影を感じさせるような船室を描くのは難しかったです。
ということで、最初は筆が進まなかったですね。
でもこのまま何も描かなかったら終わらないので;
自分なりに人魚になった気分になって、少しづつ家具と人魚的飾り付けや
細かなこだわりを擦り合わせて行きました。
結局、元々の部屋自体も装飾的な家具が多いので、
それらを適度に配置して、最後に人魚的な要素をいれて調節しました。
靴が片方だけ並べられていたり、ベッドの上の貝に、アクセサリー類を
集めてみたり、シャンデリアに貝殻を付けて装飾したり。
本当にちょっとしたことですね。
もう少し私の女子力が高かったらもっとロマンチックになってたかもしれません。
そしてこの後のお魚たちを入れるターンが一番私は楽しみで。
家具描き終わった時に、「ようやっとお魚ちゃんがはいるで…」
と呟いたくらい魚に飢えてました。
実は、ガラスの向こうにシュモクザメ(当時もその姿からいろんな絵に
描かれている)を描こう〜
と思っていたのですが、普通に肉食の鮫なので…
船室がパニックになるかと思うと描けませんでした;
下描きまでしてしまってたんですが…。
でもそれ以外に、貝、エビ、タコ、クラゲ、魚、等など
たくさん書くことができて、これまた幸せな感じで終わりました…。
実はこれ部屋が斜めになってます。
斜めの空間って描くの初めてで、本当にいろんな初めてが詰まった絵ですね。
普通にしていたら出てこない絵ですが、沢山の方に見てほしいですね。

 

S :
絵は…一度でも「魅せよう」として描いたことがあると視点がかなり変わってきますよね。
荒木さんの絵は忠実でありながら見易く、かつ自分のものにされているので、
かつて絵を描いていた身からするとそれがとても凄いことだと思いますし、羨ましいですね。
そうなれるくらい私も努力出来たら良かった(笑)。


女子力(笑)。
いや、十分ロマンチックですし、これ以上ロマンチックだと
多分なんか違うってなったと思います(笑)。
パニック!想像すると面白可愛いですね(笑)。
良かった、人魚達が食べられなくて…。
そう、そうなんですよね。傾いて斜めになってるんですよ!
丸型なので分かりにくいのですが、その角度にも是非ご注目頂きたいです。

 

A :
あああありがとう…!
ロマンチックさは、光で出した感じなので…(笑)。
窓から漏れる光ってロマンチックさ倍増させるなぁと実感しました。

 

S :
それは私も見て思いました!!
この光の入り方がとてもいいなあと。
まさにタイタニックのワンシーンを彷彿とさせるような。

 

A :
ふふ、ありがとう!
ではではこのくらいで手鏡については〆ましょうか!

 

S :
はい!そんな感じですね!

 

 

■コラボ商品「人魚の涙処方ネックレス」について

 

A :
それでは、次は人魚の涙処方ネックレスに話を移しますか。
確か最初は、当時西洋で流行っていたマーメイドショーのお土産という話でしたね。
ちょっと単価の低い、小さめ軽めのお土産アクセがあっても可愛いんじゃないかということで。
それぞれ1品ずつ作ろうか?という流れだった様な。

 

S :
そうでしたね。サーカスのように、その場で体感した不可思議さを持ち帰れるお土産があったら素敵じゃないかと。
ところが私が上手く作れなくて

(既に「人魚の鱗」を別作品で使っていたこともあり、新しい案が出ませんでした。笑)。

結局荒木さんだけとなってしまいすみませんでした。
 

A :
いえいえ、というかそこから発展して内田さんならではの貝の設定が出てきて…。
あれ?違いますね、順番。そうではなく
そもそも最初はコラボで1品という話だったんですよね。
マーメイドショーのお土産をコラボで作ろうみたいな。
私が思いついたことを内田さんに説明しているうちに、
もうデザイン案(ラフ)も書いちゃったものだから。
それに決まったけども、これだと私の案まるまるということになるので、
コラボと言うかデザイン=荒木、制作=内田さん という
今までに無いことになったんですよね。
なので、じゃあ内田さんは内田さんでもう1品作る…?
となったものの、内田さんには他にやってみたい案があり、

ちょっとマーメイドショーには関わりないものになりそうだったので、

じゃあマーメイドショーのお土産はこれでいいかと。
そんな流れだった様な。


S :
私、完全に記憶が飛んでいます(笑)。確かにそうだったような…!

 

A :
私も忘れつつ有る!ひー

 

S :
ありがとうございます、荒木さんのお陰で今この対談が成立しているようなもんですね(笑)。
パールへの文字の彫刻については、昨年開催した私の個展でやったこともあり、

不安や失敗もほとんど無かったのでスムーズに完成してホッとしました。
制作だけを担当するっていうことがあまり無かったのでやっぱり緊張しましたが、

ちゃんとイメージ通りと言って頂けて良かったです。
 

A :
そうそう、昨年開催の個展でパールを錠剤に見立てたルームキーをだしていましたね。


S :
ありがとうございます、そうなんです。あれはまず標本的なルームキーにしようと思って、
じゃあ何を中に入れるか?ってことで凄く悩んで。
それで色々な本や資料を調べていると、

荒木さんの2015年の「薬用原料採集旅行の記録」手帳に真珠のことが書かれていて…
真珠は不眠に効くとあって、これだ!かわいいし!まさに錠剤っぽいし!と…

その節は本当にありがとうございました…。
でも実際には粉で調合してたんでしょうけど(笑)。

 

A :
懐かしいですね!真珠のことを聞かれた時はどうやって使うのかな?
と思ったのですが…まさか錠剤になるとは思わず、驚きました!
そうですね、漢方だと粉かもしれないですが、

エジプトのクレオパトラは真珠をお酒に入れて美容のために飲んだという話もあるくらい。なので、

(実際は飲めるお酒で溶けることはないので、作り話でしょうか…)
丸いしそのままいけるだろうとそのまま飲んだ人もいると思います。たぶん!

 

S :

クレオパトラ、そうなんですね!でも見た目綺麗ですよね、お酒に真珠入ってたら。
そのまんま飲んだ人凄いなあ、お腹壊さなかったのかな…(笑)。


以前から、小さな文字や印刷まで再現してリアルな錠剤で作品を作れないかなあと思っていて。
もう製薬会社に協力してもらうしかないのかなあ~と思いつつとりあえず放置していて(笑)。
それが色々な道具を使えるようになって、これなら近いものが出来るのでは?と思って出来たのが

あのルームキーと今回のネックレスです。
機械を貸して頂いているところのスタッフさんにも、周りで作業している他の利用者さんにも、
「そんな小さいものに彫刻するの?何に使うの?」と聞かれまくりましたが、
どこから何と説明すればいいのか分からなかったです。


 

A :
確かに説明出来ないですよね。しかも完成は全然違う形だし!
だいたいは木かアクリル、革ですもんね。なかなか最初から最後までパーツで作る方いないと思います。
そうそう、それで、マーメイドショーのお土産=真珠の錠剤でつくれそうだね。
ということでコラボで作ろうって事になったんだよね。
でも今考えたら、そんなに大きな要素が無いのに(特に絵)コラボなんて難しいもんだよね。
結局形を整えたらもうそれで完成しちゃうし。
お土産くらいの値段。となると、それ以上要素を足す必要もないので一気に決まっちゃったんだよね。
荒:こんな感じはどうかな?
内:うんうんいいですね。
荒:それで下に処方箋つけるとか。
内:なるほど、いいですね。
終了。
みたいな感じで、お互いアレ…?終わった…?みたいな。
結局真珠の錠剤という発送は内田さん初なので、デザインしたものの私の作品として今後も販売するか?
となると違うし。どうしましょ。
でもアイテム数ほしいし、悪くないデザインだから作りましょう。
という感じだったよね。


S :
そんな感じでしたね(笑)。私、ずっと「いいですね!」しか言ってなかったです(笑)。
でも、私の普段出してる作品ほど雑貨的でなく、普段使いしやすいデザインだけど実は…

というのが人を選ばないというか。
荒木さんデザインならではの、とてもバランスの良い作品に仕上がって良かったですよね。
実際、二人展でもデザフェスでも合わせやすさに注目して下さったお客さんが多くて。
これからの季節のニットにもとても合ってましたし。


そうなんですよね、私の活動や作品ってややこしい?ので、
もう個展のコンセプトから説明しなきゃいけなくなるから難しくて(笑)。
レーザー、確かに大体は簡単な加工が多いかと思うんですけど、
私はあくまで道具のひとつでしかないと思っていて…
色んな素材を加工したり、色んな使い方が出来ると思うので、
自分だったら何をどう使えるだろう?というのは、
私だけでなく物作りをしている人ならきっと誰でも考えていることなんじゃないかなと。


A :
私アクセサリーをあまり付けないので、描きながら笑われちゃうかなぁ…

と思ってましたが、
いいですね!縦は考えてませんでしたよ。と言ってもらえて、真剣に見てもらえて嬉しかったです。
専門外のもの作る時は超緊張しますね…。
でも結局このネックレスも内田さんが細かい作業もしっかりできる人だからできたんですよ。
ラフ書いたものの、これって何でどうしたら出来るの?
このサイズにちゃんとなるの?って状態で全部お願いしてしまって…;
内:これは小さいサイズのヒートンが…
荒:小さ!!
内:パールはここのこういうのが…
荒:おお!まさにこういうのよ!
という感じで驚く係みたいな(笑)。


S :
逆にあまり見過ぎてない・着けない人が考える方が良い案が出ることもありますよね。
好みが出すぎない、偏らないというか。
まさかそんなに心配や緊張されてたとは思ってませんでした(笑)。
普段からパーツ色々見てるからっていうことと、

シンプルなお陰で本当にトントンとスムーズに出来たのですが…お役に立てて良かったです(笑)。
 

A :
アクセはセンスだもん、しかも形のセンス…ないわぁ。私に無いものだわぁ。
とにかく内田さんのお陰であの小さくて繊細な作品になったんです。
私作ったら2倍くらいの大きさになっていたでしょう。怖い。
というわけで、人魚の涙処方ネックレスの制作について…。
こんな感じでした!

 

S :
いやいや、全然そんなことないと思います(笑)。
結局、興味や好き嫌いや慣れだけの問題かと…。
2倍でもPOPで可愛かったかもしれませんよ(笑)。
はい、こんな感じで!

 


 

roomkey
沈没船の住人
人魚の処方

ここからは、個別の制作作品についての裏話です。

 

■伝書鳩の処方便について Araki Mizuho(医療系雑貨生みたて卵屋)

 

伝書鳩をテーマにしたアイテムは、前々から作りたかったんです。

伝書鳩というと、脚に手紙を付けているイメージを思い浮かべる方が多いですが、

私の場合専門が医療でして…。

薬で調べているうちに、実際に「薬を運ぶ伝書鳩」が居たという話や写真が目に留りました。

薬と言っても、今回のようにハーブ等ではなく、もっと直接的医療に結びつく血清等でしたが…。

特に各国の軍では、鳩にこうした役割を持たせたようです。

こうした伝書鳩は、もちろん脚にくくりつけるには物が大きく不安定ですので、

今回デザインしたカードの様に背中に背負っているタイプが多かった様です。

細長い管の様なものを、リュックの様に背負っている姿。

おそらく本人は窮屈であったと思いますが…とても可愛らしい姿なんですね。

ですので採用しました。

 

数千年前から近代にかけて息の長かった伝書鳩。

とってもロマンを感じさせるアイテムになりそうですよね。

ただ、型抜きにはしたいと思いましたが、どのような形にするべきか大変悩みました。

簡単に郵送も出来るようにしたかったですが、本体があまりに軽いと、

背中に背負わせるのでバランスが悪くなったりたわんだり歪んだりしないだろうか。と。

そこで近くの活版屋さんに相談しに行き、

本体は型抜き(分厚い板紙なので)➡活版印刷、羽はカッティングマシン➡活版印刷することにしました。

鳩は活版印刷的にかなりバランスが悪い(角がない)形なので、

手刷り活版で印刷屋さんにも「角があるものが刷りたいと」思わせるほど泣かせてしまいました;

処方管に関しても、あの形で売ってはいないので自分で一手間加えたり…。

久々に工作をしている気分で、かなり手間がかかりましたが可愛い物が仕上がりました。

 

活版のインクも、青に銀を入れているので、実はちょっとキラッとします。

インクの濃度も、活版屋さんと少しづつ銀を足しては色を見て…の繰り返しで、

足しすぎてやり直したり。本当に苦労をかけてしまいました。

お陰で理想的な青銀です!

鳩の絵も、4回も書き直したので、大変でしたが一番かわいく凛々しい鳩になりました。

羽の感じも好きです。

背景もサービス!と思い4枚も作ってしまいました。(1枚は既存ですが。)

今はクリスマスバージョンの背景も出していますが、全部写真ではなく絵なんですよ…。

結構気合入れてます。

 

中身に素材をそのまま入れるので、薬事法について聞きに都庁に行ったり。

保健所に行ったり。いろんな方に聞いて、漸く完成したのがこの伝書鳩です。

一番最初に作りはじめ、型抜きまで順調に行ったものの、ちゃんと出せるのかハラハラしました。

とっても自己満足な作品ですが、作ってみたかったので本当に満足しています。

発表した時に、鳩可愛い!と言ってもらえて嬉しかったです。

中身の6種以外に、手紙をそのまま載せるむき出しタイプ、真鍮管に入れる本格タイプの

2パターンを作りましたが、ちょっとお高めだけど華やかな真鍮管タイプが人気でしたね。

真鍮管は値段が全く下がらず、結構高いのでこの仕入れがちょっとした悩みです(笑)。

 

いろんな場所に飛び立ってほしいですね。


 

■ファスキナ・マリーナ 海のお守り Araki Mizuho(医療系雑貨生みたて卵屋)

 

貝を使って何かを作ろう、という話は、家族からアイデアが出ていました。

でもいつもの紙アイテムの中に、いきなり貝を出すのも難しいし、そもそもどうやって加工するのだろう…

という不安もあり、数年間経ってしまい。

今回のテーマを決めた時に、これはもう貝をやる絶好の機会!ということで着手しました。

しかし、貝の彫刻作品は、カメオを始め、ベツレヘムの星、貝ボタン。

沢山のものが遥か昔から溢れています。

これまで見たことがあるような作品では、きっと誰も振り向いてくれないだろうな。

とかなり悩みました。

 

企画展の制作が始まり、紋章について調べていくうちに、作りたい柄を思い浮かべることが出来…。

初めにリヴァイアサン、その次にマーメイド、ダゴン、ハルピュイアを一気にデザインしました。

リヴァイアサンは勿論海竜ですが、このデザインには

6月の新作「シー・サーペント目撃情報博物画パンフ」を作った経験が役に立ちました。

過去にあった多くの証言を、実際の博物画に起こしてみるという試みの作品で、

いろんなパターンのシー・サーペントを描いたので、

その中でもお気に入りのデザインを更にブラッシュアップしました。

マーメイドは本題は1尾なのですが、2尾の方がバランス良く、また大好きな形なので。

かなりパッとひらめいた様で、今覚えてるのは長笏を足して良かったなということですね;

ダゴンはこのバランス、かなり大変でした。

層的にも重なりが3層になるので、このせいで最後まで美しく彫刻するのに四苦八苦しました。

でも海馬に乗ったダゴンを描きたかったんですよね。

6月のシー・サーペント特集で出した便箋には上半身魚の魚人型ダゴンを描いたのですが、

今回は人魚型。ロマンチックにならないようにかっこよくしたかったんです。

上部も騎士の兜を入れて、騎士の紋章にしました。

本当にかっこよくデザインできて満足です。

ハルピュイアは、中のデザインは直ぐに決まったものの、周りの部分をどうしようかと。

ハルピュイア自体がちょっとマーメイドと似ているので、どうやって差別化したら良いのかなと悩みました。

悩んだ挙句、王冠とリボンのデザインにしましたね。

サーペントを従えたハルピュイアという、ちょっと強い意匠なので、可愛らしさをプラスしました。

 

問題は大きさと貝の種類で、最初はいろいろな種類を買い、沢山テストしました。

最初から全部失敗で、全てにおいて何度も何度もやり直しました。

天然の貝ですから、それぞれの個体によって強度が違うんですね。

勿論マニュアルなんて無いし…すべて手探りでした。

層が剥がれたり、割れたり、最後の洗浄の段階で欠けたり、ものすごい数のロスが出ました。

一時はこんなに大変なら、もうやめたほうが良いのでは。

満足いく物が出来る日は来ないのでは。

とかなり後ろ向きになりました。

正直やめてしまうのをなんとか留まらせたのは、

技術担当の家族(T)が頑張ってやってくれているからでした。

 

実は私は立体作品はそこまで得意ではなく、家族に職人気質の人間がいるので、

これまでも原型の製作等お世話になってました。

(複製と研磨はやるんですが、あまり得意でないので大変です;)

加工に関しても技術的不安はありましたし、貝の性質など様々なことを考えると、

とても忍耐がいる仕事なのですが、コツコツ努力と調整とテストをしていくうちに、飛躍的に技術が向上し…

今のような作品が作れるようになりました。

 

素晴らしい第一号が上がった時の感動は忘れられません。

すごい!やった!というのも勿論ですが、これで漸く努力が実った…という開放感はすごかったですね;

細かい部分も見事に再現され、個体によって少し堀りの雰囲気が違ったり、

色が全く違うというのは、ずっと見ていても飽きさせない魅力がありました。

今ある材料の中でも、独特の輝きを持ち、特にアンティークな雰囲気にピッタリで。

昔から宝飾に使われてきただけあるなと感じました。

石や樹脂、金属も素敵なんですが、あの層と一緒に付随する膜のような部分が、

生き物の組織を意識させるんですね。光を透過する際に水っぽいシズル感があり、不思議な雰囲気です。

(触っても普通に硬いです。)

 

貝の業者の方も、この人達はなんでこんなに買いまくっているの?

と相当疑問だったようで(普通アクセに使うとしても、加工もしないし少量らしい)

何やってるんですか…?と聞かれました。

そこで、ドキドキしながらこんなのを作っているんですが。と写真を送りました。

業者さんは大変驚いて、

「こんな細かいもの見たことないです!欲しいです。

色が鮮やかですが、これは天然なのでしょうか?」と色々聞いてくださいました。

(↑天然です。)

貝の産業も高齢の方が多いようで、是非今後も続けてほしいとのことで、

この作品の生産は終わりましたが(現在庫で一度終了します。)

また何か作っていけたらと思いました。

今回制作した中では一番時間がかかり、一番新しいものであったなと感じます。


 

■マーメイド号2号のチケットについて Araki Mizuho(医療系雑貨生みたて卵屋)

 

上記でお話した通り、船のチケットは一回は作ってみたかったんです。

そして上記で紋章についての解説も書いてしまったので、純粋に形の解説になるわけですが。

昔のチケットについて調べていくと、例えばタイタニックなんかは、

1st~3rdまで共通っぽいんですよね。

 

でも折角なので1stのチケットに関しては、豪華に行きたい!ということで、

普段はあまり使わない箔押しを使うことにしました。

箔押し、実はあまり使ってないんですね。

というのも、箔押しって何でもかっこよく見えちゃうんですよね…。

それの何がいけないのか。と感じる方もいらっしゃると思うんですが、

純粋な絵以外の「特殊効果」が目立つと、

それなしで物を考える事が難しくなるんです。

 

私は以前パッケージデザイナーをしていたのですが、箔はワンポイントでも見栄えがあるので、

予算があれば何にでも使いたいくらいでした。

箔に限らず、エンボスや型抜き、特殊な紙、特殊インク…見慣れないもの、

素材自体のクオリティが高いものは物凄い勢いでデザインの底上げをします。

何度も使うと、そういった普通は使わない「特殊効果」なしに考えるのが難しくなるだろうなと、

あまり使わないようにしています。

 

勿論、単純にデザインの底上げとして使うだけでなく、別の目的がある場合は例外です。

「特殊効果」を使うことによってデザインの本来の意味をみせたり、

「特殊効果」自体にこだわりがあり、使う以外の選択肢はない。という場合です。

そういった作品を、全体の中でバランス良く開発するセンスは大事だなと思います。

 

今回は普段と違う豪華さを出したいな、という単純な理由ですが、

通常商品との差別化にもなりました。

そんなわけで1stはかなり最初に完成が見えていました。

残るは3rdですが、普通に作るとあまり面白味がないので、オプショナルツアーを付けたら面白いかな。

と思いまして、「ホエールウオッチング」「水中メガネでみてみよう」「ビーチコーミング」の3つを追加しました。

作ったハンコは、ムラを意識して押し、

紙は1stも3rdも炙り、アンティーク加工しました。

よく考えると、ここまでしても紙なので紙の値段を付けるしかないのですが、

普通の発注品よりだいぶ手間をかけています。

企画ということで結構特別仕様です。

 

■眠り貝のピアスについて Uchida Tomoko(sleep epidemical laboratory)

 

この作品は、今までの自分の作品の傾向とは少し違うものを作ってみたくて出来たものです。

 

何年か前から海で色々拾うようになり、貝そのものや貝モチーフのものに惹かれていました。

貝殻は自然に出来た形なのにどれも可愛らしく、

アンティークジュエリーやコスチュームジュエリー等でもそのまま使用されていることが多いのも頷けます。

 

今回は沈んでしまった島や船がテーマであることから、

その島には今はもう存在しない・採れない貝があったという設定にしました。

また、シジミが健康に良いと言われているように、これも何か効能がある貝で、

島民がそれを食生活に取り入れていたなら?と考えました。

そこで、真珠と効能がかぶってはしまいますが、

当方の普段のコンセプトを踏まえて「睡眠促進成分が含まれている」ということに。

 

しかし、ではどういった形や見た目でアイテム化するか?と色々悩みました。

最初に述べたように、貝そのものの形が美しいのでそれをそのまま活かしたい。

出来れば外側、内側どちらも見せられるようにしたい。

そして今までの傾向と違うというのは、

「単純に分かりやすく綺麗で可愛らしいもの」を作りたかったんです。

(普段は「アイテムそのものの見た目」と「コンセプト」のどちらにも重きを置いており、

コンセプトの説明がないと分かり辛いものが多いので)

なので、内側に青のシェルとパールで中身を作り、キラキラとしたロマンチックなイメージにしてみました。

 

ブローチやネックレスなど色々な形で考えてみたのですが...

結局、一番シンプルな形のピアスに落ち着きました。

ピアスだと着けられる人が限られてしまうのでそこも悩んだのですが、

パールキャッチにすることでピンズのようにも使えるようにしました。

そして、チェーンで揺れるタイプにすることで両面が見えるようにしました。

 

普段見てくださっている方にはあまり響かないかもしれない...と思っていたので、

ある意味不安だったり小さな挑戦ではあったのですが...

「たまにはこういうのも作るんだね!」と普段のお客様が手に取って下さったり、

たまたま見かけたという方にビジュアルで気に入って頂けたり...

やってみて良かったなあ、と思える作品になりました。

■密造酒「眠り酒」について Uchida Tomoko(sleep epidemical laboratory)

 

この作品は、「眠り貝」の派生作品になります。

元々瓶を使った作品を作りたくて、

古い小さな瓶を見つけた時にはストックとしてまとめて購入しておりまして…。

その中で合いそうな瓶があったので、良かったです。

 

眠り貝の成分が睡眠促進効果なのでやはり寝る前に飲んでいたでしょうし、

島民達はお酒なんかも作ったりして嗜好品として楽しんでいたのでは?と思い、この密造酒が出来ました。

 

色はやはり青で、固体ではなくやはり液体に眠り貝の中身を入れて、

振った時の動きを楽しんでもらいたいと思い色々試行錯誤しました。

 

私は普段お酒をほとんど飲まないのですが、まずどうしたらお酒っぽく見えるのだろうか?と…(笑)。

色々なお酒のボトルを見に行ったり、ミニチュアボトルを調べたり、

ヴンダーカンマーにありそうな古い瓶物等を調べたり…。

蓋を紐で括って、貝パーツに彫刻を施した物を糸で取り付けることで、

なんとかお酒らしくなったかな…?と思います。

 

本当はラベルや箱ももっと凝りたかったのですが、古い時代の小さな島の密造酒なので、

それに似つかわしく持ち運びやすいような、ラベルも箱もなるべく簡易的なイメージで作りました。

 

■漂着標本ブローチについて Uchida Tomoko(sleep epidemical laboratory)

 

こちらは、個人で制作している標本シリーズの二人展用特別ver.です。

実際の漂着物を閉じ込めました。

 

いつもと違う特別な配色で、尚且つ中に入れる物の色の邪魔をしないように枠を銀色に、

背景色は中身に合わせて黒か白にしています。

海にあるともしかしたら気付かないような小さな石や貝やガラスをひとつひとつ標本にしたことで、

その可愛らしさや面白さに注目してもらえたら嬉しいです。

 

元々このシリーズは、これまで作ったものよりも小さくて着けやすいアクセサリーを作りたい

と思って制作したシリーズなのですが…

小さなネジが必要性を持ちつつ、アクセントになっているのが気に入っています。

 

荒木さんの「ファスキナ・マリーナ 海のお守り」の項目で

貝の業者さんに不思議がられた…というお話がありますが、

私もネジの業者さんに最初は不思議に思われて聞かれたことがありました。

(一昨年のコラボ作品の「北天星図」や、昨年の個展作品からお世話になっているので、その頃に…)

確かに、個人でこんな大量の、しかも複数の種類のネジを一体何に使っているのか?と

不思議に思われても仕方ないなと(笑)。

「こういう活動をしていて、こういった色んな作品に使わせて頂いています…」と

恐る恐るお伝えして写真をお見せしたところ、

そこも個人の業者さんで、その方もネジを作って売るだけでなく作品を制作されていて、

デザフェス等にも出展されているネジ愛のある方だったことが発覚しました。

こだわりや使い道などを喜んで頂けて、とても嬉しかったのを覚えています。

以上です!

個々まで読んでくださった方はいらっしゃいますでしょうか。

長い文章にお付き合いいただき、本当にありがとうございました!

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