
医療系雑貨生みたて卵屋
Designed by Araki Mizuho
謎解き企画
「Samhain trick bookージャック・オー・ランタンの誘いー」

STORY
日々寒さが増す秋の夜、紅葉した木々を抜けた先に明かりが見えた。 植物収集のため北大西洋に浮かぶ島に訪れたのだが、収集に夢中になり森の奥深くに入り込んでしまった。
島は平坦な地形が続き、10月でも草々は生い茂り緑に覆われている。 そのため、陽が落ちて真っ暗になり何処にいるのか分からなくなってしまっていた。
明かりに近づくと其処は5軒ほどの小さな集落で、その中の一軒に煌々とした看板が掛かっている。どうやらパブのようだ。空腹だった事もあり、情報収集も兼ねて私は店に入った。

店の中に入ると町外れだというのに結構な賑わいだった。
今日は10月の最終日で、この辺りの地域では年間雇用契約の最終日であり、再契約の日でもある。一年間の報酬や次の仕事の支度金が手に入る日でもある。
自らの職業を示す道具を持って次の雇用主を探す。羊飼いは羊毛、騎士はわら片、酪農家はバケツを運び、メイドは箒やモップを持つ。店内には箒を持った女性も多い。
テーブルの席は埋まっていたので、カウンターの席に着く。
名物の黒ビールで煮込んだ牛肉のシチューと島産のウィスキーと水を頼む。
料理が出てくるのを待っていると、隣の席が騒がしい。聞き耳を立てずとも話が耳に入ってくる。
くたびれた服を着た気の弱そうな若い男性と、身なりのきちんとした初老の髭を生やした男性が話し込んでいる。
若い男性が何かに困っていて、初老の男性が相談に乗っているようだ。
なんでも若い男性は帰る場所を失ったようで途方に暮れているようだった。
初老の男性はただ慰めるだけで何も解決する気配はなかった。
話を聞いている感じだと二人の付き合いは結構長いようだった。初老の男性がビールを奢っていたようで、若い男性はそのビールを飲み切るとこちらを向き話し掛けてきた。
どうやら今度は私が相談に乗る番のようだ。

若い男性はウィリアムと名乗った。この地域ではよくある名前だ。
この辺りに来たのは一年ぶりだという。毎年この時期でないと来れないという。
初老の男性は彼をウィルと呼び、古い友人のようだ。ウィルは初老の男性をニックと呼んでいた。
ウィルはニックのせいで居場所を失ったといい、ニックはウィルに痛い目に遭わされたといい二人の関係はあまりいい関係に思えなかった。
しかし、時が二人の関係を穏やかにしたようでこうやって偶にお酒を飲むらしい。
仲直りまでどれくらいの月日が掛かったのかを尋ねるとウィルは300年くらいと答えた。
聞き違いをしたのかと思って、再度尋ねたが間違いがないようだ。
ここから二人の話はおかしくなっていった。
ウィルはこういった季節の変わり目以外は歩き続けていると言う。彼此1000年以上もだ。
何年生きているのかと聞くとウィルは覚えていないが、ニックは更に長生きしていると言う。
この二人は何者なのか私は話を詳しく聞いた。

ウィルは元々鍛冶屋を営んでいたが、鋤鉄しか作る事が出来ず仕事はなかった。少ない稼ぎは酒飲みにに注ぎ込み、自堕落な生活をしていた。そこに現れたのがニックだった。ウィルに自分たちの住む世界へ来ないかと誘いに来たのだ。ニックの住む世界は、地下にある死後の世界だという。まだ若く、死にたくなかったウィルは誘いを渋った。ニックは3年後移住する事と引き換えに願いを3つ叶えたという。
一つ目の願いは、お金を盗まれないようにとウィルにしか開く事が出来ない財布を願った。ニックは入れるお金もないのにと思いながらも願いを叶えた。
二つ目の願いは、ウィルが許可しない限り振り続ける金槌を願った。
三つ目の願いは、ウィルが許可しない限り立つ事が出来ない椅子を願った。ウィルの数少ない財産を盗まれないようにという願いなのだろう。つまらない願いだと思いながらもニックは願いを叶えた。


3年後、ニックは約束通りウィルの鍛冶場を訪れた。
ウィルの暮らしは相変わらず貧しいままだった。
さっそく下界へ連れてこうとするニックに、ウィルはやりかけの仕事を最後までやらせて欲しいとお願いした。ニックが承諾すると、ウィルはほとんど完成している蹄鉄の仕上げを残して、出発の準備を始めた。
ニックは完成させてしまえば出発できると思い、金槌を手に持った。その瞬間、手から金槌は離れなくなりニックは蹄鉄を三日三晩打ち続けた。
ウィルは疲弊しているニックにあと3年間待ってくれれば、金槌を手離すことを許可すると脅して、ニックは渋々了承した。
3年後、ニックは約束通りウィルの鍛冶場を訪れた。
ウィルの暮らしは相変わらず貧しいままだった。
さっそく下界へ連れてこうとするニックに、ウィルはやりかけの仕事を最後までやらせて欲しいとお願いした。ニックが承諾すると、ウィルはほとんど完成している蹄鉄の仕上げを残して、出発の準備を始めた。
ニックは完成させてしまえば出発できると思い、金槌を手に持った。その瞬間、手から金槌は離れなくなりニックは蹄鉄を三日三晩打ち続けた。
ウィルは疲弊しているニックにあと3年間待ってくれれば、金槌を手離すことを許可すると脅して、ニックは渋々了承した。
また3年後、ニックはウィルの鍛冶場を訪れた。
ウィルの仕事は少し順調なようで悪くない生活をしていた。
ウィルは仕事を綺麗に終わらせており、出発の準備をするからと言ってニックに少し待たせることにした。この日は寒い日だった事もあり、ニックは暖炉の近くの椅子に座って待つことにした。
ウィルが戻ってくると、暖炉に薪を焚べ始めた。
ニックは轟々と燃える暖炉の熱さに移動しようとしたが、椅子から立つことが出来なかった。
ウィルは薪を焚べながらニックにあと3年間待ってくれれば、椅子から立ち上がることを許可すると脅して、ニックは渋々了承した。
それから3年後、
ニックはまたウィルの鍛冶場を訪れた。
仕事は順調なようで裕福な暮らしをしていた。
ウィルは既に出発の準備を済ませており、さっそく下界へと出発をした。暫く歩くとパブがありウィルは最後だから一杯だけ飲ませて欲しいと懇願した。ニックも酒に目がなく一緒に一杯だけ飲むことになった。ウィルは手持ちの金がないので、ニックが変身した硬貨で支払いをして店員を騙すという悪戯を思いついた。賛同したニックが硬貨に変身すると、ウィルは硬貨を財布に入れて鍛冶場に戻り財布ごと金槌で叩き続け始めた。

ニックは財布から出る事は叶わず、三日三晩叩かれ続けた。
もう二度と会いに来ない事を誓う代わりに、ニックは財布から出る事が出来た。
そしてニックがウィルを誘いに来る事はもうなかった。
ウィルが起こしたニックへの数々の所行は知れ渡っており、
地下世界に限らず死後の世界にウィルに居場所はもうなかった。
ウィルは行き先を失い、生者の世界と死者の世界の狭間を永遠に歩き続けることになった。
そこは暗く何も見えない世界で、不憫に思ったニックはウィルに火のついた藁を与えた。


やがて、ウィルに寿命で死が訪れた。死後の世界でウィルはマグメルと呼ばれる喜びの平原を目指した。そこは美しく幸福で満たされた世界で、死者と栄誉ある生者のみが立ち入る事が出来るという。
やっとのことでマグメルの入り口に辿り着いたウィルだが、立ち入る事を拒否されてしまう。
マグメルはニックの言っていた
地下の世界の入り口だったのだ。
というのが、二人の思い出話だという。
ウィルの藁火は、この世と死者の世界との境界が曖昧な時、
見えるようで「ウィル・オ・ザ・ウィスプ(ウィルの藁火)」と呼ばれているという。
英国ではジャック・オ・ランタン(ジャックの提灯)と呼ばれているようだ。ウィルもジャックもよくある名前だからとウィルは笑った。
ジャック・オ・ランタンと聞いて、今夜がサマインだった事を思い出す。
サマインとはケルトの風習で、10月末日の夜に行われる祭りだ。
ケルトでは11月からが新しい年と考えられており、その節目の祝いだ。
また、1日の終わりと始まりは日没だったため、11月1日の前日の日没を持って新年を迎える。
一年は夏と冬の二つに分かれており、冬の季節が始まる。この日、夏と冬の世界の境界は入れ替わりのため特別に薄く、他の異なる世界へも繋がる特別な時と考えられている。
サマインの夜は、死んだ先祖や故人、異界の住人達も彷徨っているという。
日本で言えば盆と正月が一緒に訪れるような事なのだろうか。
なので、どこの街でも飾り付けや御馳走の準備、祭事や儀式も大がかりのようであちこちで作業をしていた。子供達はカブやカボチャをくり抜いての提灯を作っていた。
その提灯がジャックオランタンと呼ばれていた。
お読みいただきありがとうございました。
この2人は人間ではなかった…いったいここは何処なのか?
旅人は、無事帰ることができるのか…?